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変化は本当にそれが原因なのか?不倫×SF「あげくの果てのカノン」を読んだ

実は完結するまでこの話を知らず、ねとらぼのインタビューではじめて知りました。不倫×SFってすごいなと思いながら、気がついたら朝方まで一気に5冊読み切ってしまい……(ど平日に)

さすがに読むタイミングは考えるべきでした。でも面白かったから仕方ない。

 

 

あげくの果てのカノン」とは

8年前に宇宙から永田町に落ちてきた異物によって変化した世界。壁によって隔離された「ゼリー」と呼ばれる異物と、ゼリーと戦う組織SCF。荒廃した地上の洋菓子店でアルバイトに励む高月カノンは、高校時代から1人の先輩(境宗介)に恋い焦がれ、結ばれることはないと理解しつつも先輩に思いをはせる日々を送っていた。2ヶ月前、偶然カノンの働く洋菓子店を訪れた境と、紆余曲折を経て不倫関係に陥ることに。
カノンと境、境の妻初瀬や友人家族を巻き込み、カノンの恋はやがて街の崩壊へとつながっていく……

というのが大筋です。

 

主人公とその周辺の人間関係が世界の命運に直結する話といえば、いわゆるセカイ系に当たるのかも。

ただ「あげくの果てのカノン」では、カノンと境を取り巻く街の人々の描写も鮮明なので、セカイ系というには少し生々しいかも。

不倫といいつつ、序盤の2人の関係は、恋に恋するカノンと、そのカノンの恋心を自らの憂さ晴らしに利用するかのような境。カノン自身も自身の恋心が一方通行なことを自覚しているのが辛い。

より不倫感が強まるのは3巻以降、不倫旅行あたりでしょうか。

 

人はどこまでの変化を許容できるのか

作中では異物である「ゼリー」と戦うだけではなく、その「ゼリー」によってあらゆる傷を「修繕」する描写もあります。

「修繕」を行うとあっという間に傷は治り、失った手足も取り戻せる。ただし、修繕を重ねることで被験者は記憶や性質に変化をもたらします。気持ちの変化、記憶の変化、体の変化。

境の妻初穂はその変化を治す研究者として境を支える。

読みながら、スワンプマン(泥の男)の思考実験を思い出しました。

境の変化は修繕がなくても起こりうる。外的要因だったり、思い違いだったり。

作中境は故郷を訪れ、「好きだったのは夏だ」と言っている(周囲から境は冬が好きな子供だったと言われている)。
けれど、本人含めこれを今証明できる人は誰もいない。

周りから見れば境は冬が好きな子供だったのかもしれないけれど、本当は夏が好きだったのかもしれない。子供の頃は冬が好きだったけれど、大人になって変わったのかもしれない。

そもそも人の脳みそは案外適当で、思い込んだら本当にそう思ってしまうところがあるそう。それを修繕で変わってしまった現在の境は証明することができない。これは別に境に限らない。

初穂だって、境と出会った頃から変わっているわけで、修繕による変化は急激な変化であっても特別な変化には思えませんでした。けれどそこに修繕という方法と結果があるので、読者のほうからもどれが正解なのか(心変わりが修繕によるものか違うのか)がわからないというのが面白かったです。
どっちなのかなーどっちもだろうなー……

 

変化する中で変わらない本質

実験用のゼリーであったメメちゃんを刺殺した初穂が子供のように泣き崩れるシーン、境の甘い物好きが変わらないこと、10年後も変わらない、好きなものに対するカノンの情熱。変化の中でも変わらなかったものがいくつもあるんですよね。

おそらくこれがこの人達の「本質」に関わる部分なんだろうと思います。

 

結局人は環境とか決意によって簡単に変わるものの、本質やその人のルーツに関わるようなものに変化を起こすことは容易ではないのだという事かもしれない。

 

カノンにとってはそれがパッヘルベルのカノンであり、境との出会いであったというだけなのかもしれない。

 

「あげくの果て」にカノンはどうなったのか

あげくの果てはご存知の通り、とどのつまり、もしくは、さまざまな経緯を経た結果という意味。タイトルから察するに、結局カノンの話はここまですべてが序章だったのでは?というのが私の感想です。

 

全5巻、高校時代、あるいは8年前のゼリー襲来から、境との再会と不倫、血のつながらない家族との関係も、初穂との確執も高校時代からの友人との決裂、果てはカノンが永田町から逃げ出して最終話の10年後に至るまで。ここまですべてが結局、これからのカノンの人生における前座であり、最終話、最後のコマを見る限り、あげくの果てにカノンは変わらず境に恋に落ちるのではないか。(というか落ちてるよね?)

 

ありとあらゆる出来事で、例えば彼女は恋に固執するあまり家族や友人、自分を取り巻く環境をいかにないがしろにしてきたかを思い知ったし、最終話で弟をみごとに振ったことは彼女の成長なんだろうと思う。

今の彼女には3周年を迎えた友人との店があり、おそらく以前のように簡単にこれらを捨てることはないのではないか、と思う(早期対したいというのも込めて)

 

ところでゼリーっていいね。未確認生命体よりも呼称が身近なのにめちゃくちゃ異質で。最初から最後まで異質で、どこまでもわかりあえないものだったのもよかった。

 

そういえばこれって不倫モノなの?

高校時代の後輩に再会して不倫するってすっげーオーソドックスだなーって思うので不倫モノは不倫ものですよね。

そういや修繕の結果どんどん変化していくというの、心変わりは修繕のせいなのかというのはおそらくノーなんだろうなというのが個人的な感想です。

修繕による変化はきっかけに過ぎず、結局は相手が変わることを受け入れなかった初穂と、変化することを拒絶された境の失望によるすれ違いが原因なわけで

正直カノンもこの夫婦に振り回されて(それをしたたかに利用したとも取れるわけですが)るし。

 

 

はた迷惑な純愛モノ

あんまり総括するのも作者の人に悪いのではと思うくらい、あげくの果てのカノンは5巻で完結と思えないくらい濃密なマンガです。

 

人によってはセカイ系とも取るかもしれないし、あらすじ通りの不倫モノでもある。

私はこれは色んな人を巻き込んだはた迷惑な純愛ものだと感じました。

 

ただなーこういう運命的な一直線な純愛モノ、どうやっても好きなんですよね。SF的要素が絡んで現実離れしているから余計に思う。

 

世界より一人を選ぶ展開は私にめちゃくちゃに刺さる。

 

そういう意味では初穂さんのようなヒロインもめちゃくちゃ好きなんですよ。

惜しいな…初穂さんのお話ももっと読みたかった。でも初瀬さんがヒロインになると、めちゃくちゃキレイに一人の女性が超いい女性になって終わってしまう。

初穂さんがメメちゃんを刺殺して号泣するシーンが、私はとても好きなんですよね。いつから思い通りになると思っていたのか。これはゼリーに対してもだけど、夫である境に対しての言葉でもあるよね……と。

 

あげくの果てに、これからのカノンが何を見てどう変わっていくのか、おそらく私は想像しかできないのだけれど、なんとなくいいものであってほしいと思う。

 

あげくの果てのカノンっていうタイトル、本当にすごいな?!このタイトル考えた人は天才に違いない。